労働保険・社会保険の種類
開業すると、事業主は要件に合致したときに労働保険・社会保険に加入しなければなりません。基礎知識として、以下の制度を理解しておきましょう。
<表 労働保険・社会保険に関する届出>
類型 | 種類 | 概要 | 業態 | 行政機関 |
社会保険 | 国民健康保険 | 業務外での病気、ケガなどで医療費を一部給付。 | 個人事業主 | 市区町村 |
国民年金 | 原則65歳以降に年金を支給。 | |||
健康保険 | 国民健康保険と同様。 | 主に法人 | 年金事務所 | |
厚生年金保険 | 国民年金と同様。 | |||
労働保険 | 労働者災害補償保険 | 業務上、通勤上の災害でケガや病気などした場合に補償 | 共通 | 労働基準監督署 |
雇用保険 | 労働者が失業した場合に必要な給付を行う。また、労働者個人のスキルアップ費用給付(教育訓練)なども実施。 | ハローワーク |
※わかりやすさを優先したため、詳細を省いています。実際には法律ごとに要件がありますので、詳細は行政機関か専門家(社会保険労務士)にお問い合わせください。
開業後に行う手続き
労働保険(労災保険,雇用保険),社会保険(健康保険,厚生年金)に関わる届出を労働基準監督署,公共職業安定所(ハローワーク),年金事務所に行う必要があります。主に必要な届出は下記表のとおりです。労働保険,社会保険は,加入要件に該当した場合は,加入したくなくても加入する義務があります。
なお,個人事業者の事業所が健康保険・厚生年金の適用事業所となっても,個人事業者自身は健康保険・厚生年金に加入できません。個人事業者は国民健康保険と国民年金に加入する必要があります。その場合,扶養している家族の分も国民健康保険と国民年金の保険料を支払う必要があります(家族の分は無料になりません)。特定の業種を対象とした国民健康保険組合に加入する場合など,複雑なケースもあるので詳細は関係する役所の窓口または社会保険労務士に相談してください。
<労働保険・社会保険に関する届出>
届出先 | 届出書の名称 | 内容 | 提出期限 |
労働基準監督署 | 労働保険 保険関係成立届 | 従業員を雇用したときに労働保険関係が成立したことを届出(従業員を雇用したら必ず加入する) | 保険関係成立(従業員を雇用した日)の翌日から10日以内 |
労働保険 概算保険料申告書 | その年度労災保険、雇用保険の保険料を概算で算出して納付。 | 保険関係成立(従業員を雇用した日)の翌日から50日以内 | |
公共職業安定所
(ハローワーク) |
雇用保険 適用事業所設置届 | 雇用保険の適用事業所になった(雇用保険の加入要件に該当する従業員を雇用した)ことを届出 | 適用事業所になった日(雇用保険の被保険者となる従業員を雇用した日)の翌日から10日以内 |
雇用保険 被保険者資格取得届 | 雇用保険の要件に該当する従業員を加入させるための届出 | 被保険者となる従業員を雇用した日の属する月の翌月10日まで | |
年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険
新規適用届 |
健康保険・厚生年金の適用事業所になったことを届出
・法人:すべて加入 ・個人事業者:従業員5人以上の場合は原則強制加入、5人未満は任意加入。 |
適用事業所になった日から5日以内 |
健康保険・厚生年金保険
被保険者資格取得届 |
健康保険・厚生年金保険の要件に該当する役員・従業員を加入させるための届出 | 被保険者となる従業員を雇用した日から5日以内 | |
健康保険 被扶養者届 | 健康保険の被扶養者の要件に該当する従業員の家族がいる場合に届出 | 被保険者となる従業員に扶養されることとなった日から5日以内 | |
国民年金第3号被保険者関係届 | 国民年金の第3号被保険者(被扶養者)の要件に該当する従業員の配偶者がいる場合に届出 | 被保険者となる従業員に扶養されることとなった日から14日以内 |
普段からやらなければいけない業務
1)従業員の勤務時間を把握する(勤怠管理)
従業員を雇用した場合、従業員がいつ出社して、いつ退社したか、いつ休憩を取ったかを毎日チェックしなければなりません。方法として、タイムカードなどが一般的です。この記録が、給与計算の根拠となります。
また、残業など働き過ぎを予防して、働きすぎた場合はよく休ませたり、医師に相談させるなどして、従業員の健康に配慮する必要があります。もし、働き過ぎが原因で従業員が死亡したり、病気などをした場合は、会社が多額の賠償責任を負うリスクがあります。
なお、残業をさせる場合は、労使協定を事前に締結して労働基準監督署に届け出る必要があります。労使協定が無い状態で残業をさせた場合は、労働基準法違反となります。
2)給与計算
従業員の勤務時間が確定したら、支払う給与を計算しなければなりません。給与金額に誤りがあると、従業員からの信用が低くなるリスクがあります。給与計算は、次の給与明細の数値を確定させるイメージです。
<給与明細(イメージ)>
大きく、「支給」金額と「控除」金額に分けられます。
支給金額 |
給与の金額です。基本給のほか、残業手当、通勤手当など諸手当を支給したときは、その内訳を計算します。 |
控除金額 |
支払う給与金額や、従業員がどの労働保険、社会保険に入ったかによって、支給する給与から会社が差し引く金額を計算します。例えば、健康保険・介護保険であれば、「標準報酬月額」「事業所の所在地」「従業員の年齢」によって金額が決まります。所得税であれば、「社会保険料控除後の給与額」「扶養親族の数」などによって金額が決まります。その他、従業員を社宅に住まわせている場合には、社宅の賃料を差し引くこともあります。 |
このように、給与をただ計算するだけではなく、給与から差し引く税金や社会保険料など、ルールにしたがった正しい計算をしなければなりません。
3)毎年行わなければならない届出
労働保険、社会保険に加入している事業者は、最低限、以下の届出を毎年しなければなりません。
毎年7月10日まで | 確定保険料申告書(労働保険)、算定基礎届(社会保険) |
また、賞与を支給したときは「賞与支払届」(社会保険)、途中で基本給を変更したときは「月額変更届」(社会保険)など、国が定める要件に合致したら提出する必要があります。