事業形態
日本に拠点を設立しようとする場合、次の3つの形態が考えられます。
- 駐在員事務所:連絡事務所のことで、法人格を有していません。主に法人設立前に市場調査を行うことや、本国と日本との取引における事務連絡を行うために事務所を開設します。営業行為や契約主体となることはできません。駐在する外国人が在留資格(企業内転勤)を取得しようとする場合、事務所は住居と独立して確保する必要があります。
- 法人の設立:日本の会社法に基づいて、資本金を出資して法人を設立することを指します。手続きは、外国人、日本人の区別なく、同様の手続きが必要になります。日本法人を設立すれば、法人として商品の輸出入や日本における販売活動、そのための契約の締結など、すべての事業活動を行うことができます。法人の種類は次の通りです。
- 株式会社:もっとも一般的な法人形態です。
- 合同会社:2006年施行の会社法により新しくスタートした会社形態です。株式会社が出資(義務)に応じて配当(権利)を得るのに対し、合同会社では出資の形態や配当の比率などを定款で定めることができます。自由度の高さから、日本版LLCと呼ばれていますが、海外のLLCで享受できるような税制のメリットは特にありません。自由な分だけ出資者間で食い違いが発生するリスクがあり、定款で詳細に規定していく必要があります。
- その他の法人:非営利法人として、NPO法人の他、一般社団法人、一般財団法人があります。また、学校法人や社会福祉法人などもあります。海外からの出資が対象となるケースは、ほとんどありません。
以上を総称して,外国法人に対して,内国法人とも呼ばれています。
- 日本支店の設置:外国法人の日本支店をさします。本国に本国の法律に基づいた法人が設立されていることが条件となり、日本での事業内容も本国の会社の事業内容の範囲内となります。本国の会計年度に合わせて決算対象とする必要があり、手続きが煩雑となることから、採用されるケースは多くありません。法人格を有し、契約主体になることができます。
<駐在員事務所、日本法人、日本支店比較表>
駐在員事務所 | 株式会社 | 合同会社 | 日本支店 | |
設立目的 | 市場調査など日本での事業成功の可能性の調査、日本でのビジネスパートナー探し、本格進出前の広告宣伝。法人格を有さない。 | 本格的な日本でのビジネス活動を可能とする。多数の者から出資も可能。出資比率に応じた配当を得ることができる。 | 本格的な日本でのビジネス活動を可能とする。多数の者からの出資も可能。出資の形態や配当の比率などを定款で定めることができる。 | 日本での継続的なビジネス活動が行える。銀行口座開設、契約、輸出入の手続きなどが支店の名義で可能。 |
活動主体 | 本国会社の名義で行う。 | 法人代表者の名で行う。 | 法人代表者の名で行う。 | 日本における代表者の名で行う。 |
経営責任 | 駐在員事務所は契約者にならないため、本国法人が責任を負う。 | 株式会社の取締役が責任を負う。 | 合同会社の社員および代表社員が責任を負う。 | 経営責任は直接本国法人に及ぶ。 |
公証人による定款認証 | 不要 | 要(認証費用:約5万2千円、定款原本収入印紙代4万円) | 不要 ※但し定款自体は必要 | 不要
ただし,本国法人の実在を証明するため,本国の公証人による認証が必要。 |
開始又は設立に必要な公的証明 | 特になし | 発起人及び取締役の印鑑証明書もしくはサイン証明書 | 代表社員の印鑑証明書もしくはサイン証明書 | 本国の会社に関する本国の公的機関又は在日の公的証明書 |
登記手続き | 不要 | 要 | 要 | 要 |
資本金の払込み | 不要 | 海外からの送金には時間がかかります。
また,条件によっては困難な場合もあります。 |
海外からの送金には時間がかかります。
また,条件によっては困難な場合もあります。 |
不要 |
登記に伴う登録免許税の最低額 ※ | なし | 15万円。但し、資本金の額が2,143万円以上の場合、資本金×0.7%。 | 6万円 | 日本における代表者の選任 6万円
日本における営業所の設置 9万円 |
想定される就労にかかる在留資格 | 企業内転勤 | 経営・管理、技術・人文知識・国際業務 | 経営・管理、技術・人文知識・国際業務 | 企業内転勤、技術・人文知識・国際業務 |
訴訟における当事者 | 適格なし | 本国法人へは及ばない。内国法人自身。 | 本国法人へは及ばない。内国法人自身。 | 本国法人へ及ぶ。 |
事業の閉鎖 | なし | 通常の会社における,解散・清算手続き
株主総会 |
通常の会社における,解散・清算手続き
社員総会 |
営業所の閉鎖手続き。やや,煩雑
公告等も含め,時間もかかる。 |
※印鑑、ゴム印、登記簿謄本(登記事項証明書)などの諸費用及び行政書士等の専門家に書類作成を依頼した場合は、書類作成手数料が別途必要になります。
株式会社設立の手順
株式会社設立において、重要事項は定款の中で規定され、公証人の認証を受けて、法務局で登記されます。
定款作成を念頭に、以下の事項を決定していきましょう。
記載事項 | 記載の例/特記事項 |
商号 | 例)株式会社シンシアトレーディング
同一又は類似の商号が存在しないか、法務局やインターネットで事前に調査しましょう。 |
目的 | 営業目的が特定できるものであり,具体性があること。
例)○○機器の製造および販売 → OK 商業を営む → NG また,漁業,皮革製品の製造,武器関連製造業,通信事業,生物学的製剤製造業(ワクチン)等業種によっては,法人運営にあたり事前に日銀へ届出が必要となる場合もあります。 |
本店所在地 | 例)神奈川県川崎市麻生区×××
事前に事務所を確保する必要があります。自宅を本店として登記することは登記上問題ありませんが、事業用として使用可能か賃貸借契約の内容を確認する必要があります。また、「経営・管理」の在留資格を申請する場合は、原則自宅での開業は認められないため、事務所を確保しなければなりません。 |
機関構成 | 取締役1名からの設立も可能です。しかし,その後会社の規模を拡大するにあたっては,機関構成の編成が必要になります。 |
発行可能株式数 | 例)1,000株
将来事業を拡大し、多くの株式を発行する意思がある場合は、発行可能株式総数を多めに設定しておく方が、新たに株式を発行する必要が出てきた場合、後の株主総会での特別決議や変更登記といった手間を省けます。 |
株主総会決議の方法 | 出資者同士の多数決による決議要件を,法律の範囲内で加重または軽減できます。 |
取締役の員数 | 1人からでも可能。 |
事業年度 | 例)4月1日~3月31日
決算月は任意に設定できます。日本では3月末決算の会社が多いため、あえて繁忙期を避けた決算月にすることで、税理士への依頼がしやすくなることがあります。 |
資本金 | 例)1,000万円
法律的には1円でも株式会社設立は可能ですが、外国人が「経営・管理」の在留資格を取得するためのガイドラインとして、「500万円以上の投資規模」が求められています。 海外からの送金については,時間がかかることがあります。 |
設立時株式数 | 発行可能株式数の範囲内で、任意に定められます。 |
設立時取締役 | 例)James Sincere
国籍や居住地は問いません。従来、代表取締役のうち一人は、日本に住所を有している必要がありました。2015年3月の法務省通知により、代表取締役の全員が日本に住所を有しない場合の登記申請も受理されることになりました。しかし、実際には日本の居住者でなければ個人の銀行口座開設は難しく、手続きが煩雑なため、日本在住パートナーの協力が必要となります。 |
発起人 | 例)James Sincere
事業を始めたい、会社を作りたいと思っている人が発起人になります。1人でも構いません。 |
※ここでは定款の主要事項のみ記載しています。
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1)株式会社設立のフロー
2)許認可の取得
事業には、自由に始められるものと、官公庁の許可や官公庁への届出が必要なものとがあります。
まずは、始める事業に許認可や届出が必要か調べましょう。許認可などが必要な場合、その条件として、資本金の額や純資産の額、常勤の有資格者、事業所の面積や間取りが規定されていることがあります。従って、会社設立前に条件を確認し、その条件に合致した法人を設立しなければなりません。
<主な許認可・届出窓口>
業種 | 行政機関 |
食品類製造業、食品処理業、乳類販売業、食肉販売業、魚介類販売業、飲食店、喫茶店、美容業、理容業、クリーニング業、旅館業、公衆浴場、興行業、診療所(法人)、薬局、医薬品販売業、薬種商販売業、毒物・薬物販売業、施術所(マッサージ、指圧など)、歯科技工所、管理医療機器販売・賃貸業、コインランドリー業、コインシャワー業 | 保健所 |
リサイクルショップ、古本屋、古物商、質屋、警備業、スナック、キャバレー、パチンコ、マージャン、ゲームセンター、自動車運転代行業 | 警察署 |
酒類販売業 | 税務署 |
産業廃棄物処理業、一般廃棄物処理業、電気工事業、火薬類取扱業
介護保険業、医薬品等製造販売業、化粧品製造販売業、医療機器製造業・販売業、毒物・薬物製造輸入業、有料老人ホーム 旅行業(第2種・第3種・代理業)、通訳案内業、動物病院、動物取扱業 宅地建物取引業、建設業 専修学校、各種学校、NPO法人 |
都道府県庁
(環境局、福祉保健局、産業労働局、都市整備局、生活文化スポーツ局等) |
有料・無料職業紹介業、一般・特定労働者派遣業 | 都道府県労働局 |
貨物運送業、旅客運送業、自動車整備業、旅行業第1種 | 都道府県運輸局 |
3)法人設立後の届出
法人設立後、様々な官公庁へ届出を行う必要があります。
1.税務署 |
(1)法人設立届出書(法人設立の日から2か月以内) |
(2)青色申告の承認申請書 |
(3)給与支払事務所等の開設届出書(事務所の開設から1か月以内) |
(4)源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 |
※毎月発生する源泉所得税が、この手続きにより半年ごとの納付でよくなります。 |
2.都道府県税事務所 |
(1)法人設立届出書 |
3.市町村役場 |
(1)法人設立届出書 |
4.労働基準監督署 |
(1)労働保険関係成立届 |
(2)労働保険概算保険料申告書 |
※労働者災害補償保険に加入するために必要な手続きです。 |
5.公共職業安定所(ハローワーク) |
(1)雇用保険適用事業所設置届 |
(2)雇用保険被保険者資格取得届 |
※従業員が失業した場合や、育児・介護休業中の所得を保証するための保険です。 |
6.社会保険事務所 |
(1)新規適用届 |
(2)新規適用事業所現況書 |
(3)被保険者資格取得届 |
※健康保険、介護保険、厚生年金に加入するために必要な手続きです。 |
6.日本銀行 |
外国居住者の出資割合が10%以上の場合、日本銀行への事前の届出又は事後の報告が必要になります。 |